2軸式ビーズミルによるチタニアナノ粒子の分散凝集および再分散過程における粒子特性の変化
2軸式ビーズミルによるチタニアナノ粒子の分散,凝集および
再分散過程における粒子特性の変化†
田原 隆志1・院去 貢1・今城 祐二1・荻 崇2††・奥山 喜久夫2
1 寿工業株式会社,〒737‒0144 広島県呉市広白岳1‒2‒43
2 広島大学大学院工学研究院物質化学工部門化学工学専攻,〒739‒8527 広島県東広島市鏡山1‒4‒1
キーワード:ビーズミル,低エネルギー分散,ナノ粒子,チタニア,再分散
従来にない低エネルギーによりナノ粒子凝集体の連続分散を可能とした新しいタイプの2軸式ビーズミルを用いて,平均径15 nmの針状チタニアナノ粒子の分散および凝集特性を調べた.既往の研究において,ビーズ径およびミル回転速度を変えて最適なエネルギーで分散すると,動的光散乱法による平均粒度およびX線回折パターンによる結晶性の評価により,チタニアナノ粒子凝集体はダメージを受けることなく,一次粒子まで分散できることが明 らかとなった.本研究では,さらに分散および凝集したナノ粒子のTEM像観察,小角X線散乱,ζ-電位,BET比表面積および分光特性を調べて,ナノ粒子凝集体の分散特性を明確にした.特に,TEM像の観察より,最適分散条件では,元の針状構造を保って分散されるが,高エネルギー分散条件では,針状粒子が10 nm程度の大きさに破砕されて再凝集体となっていることが確認された.また,この再凝集体に分散剤を添加して適切な条件で分散を行うと,10 nm程度の大きさに再分散し,透明性の高い分散スラリーが形成されるが,これらの再凝集‒再分散過程での粒子特性の変化について考察した.
† 2013年4月16日受理,2013年6月10日掲載決定
DOI: 10.1252/kakoronbunshu.39.426
†† ogit@hiroshima-u.ac.jp
緒 言
光学材料や光触媒などとしてチタニアナノ粒子を応用する際,チタニアを一次粒子まで分散化することが重要であり,この分散化には0.1 mm以下の微小ビーズを用いる湿式ビーズミル分散手法が有効であることが報告されている(Inkyo et al., 2006; Takedaet al., 2008; Joni et al., 2009).しかしながら,過剰にエネルギーを付加する分散操作では,再凝集現象が生じるが,チタニアナノ粒子についての分散および再凝集特性に関しては明確な検討がされていない.
最近,筆者らは,従来型の1軸式のビーズミルを改良して,低エネルギーでナノ粒子凝集体を分散できる新しいタイプの2軸式ビーズミルを開発し,これを用いて,15 nmの針状チタニアナノ粒子について,ビーズ径を 0.03, 0.05, 0.1 mm およびビーズミルのローターピンの周速を,3, 6, 9 m/s と変化させて,動的光散乱法による粒子径およびX線回折パターンによる結晶性の評価により,2軸式ビーズミルの分散特性を検討した(Tahara et al.,2011).その結果,ローターピンの周速およびビーズの大きさによるビーズの衝撃・せん断エネルギーにより,チタニアナノ粒子への影響が異なることを明らかにした.高い分散エネルギーでは,一次粒子がダメージを受けて破砕されたナノ粒子は再凝集体となるが,逆に,低い分散エネルギーでは,分散が一次粒子径まで進まず,最適な分散エネルギーを用いた場合のみ,チタニアナノ粒子の結晶性にダメージを与えることなく,一次粒子径まで分散することがわかった.
本研究では,ビーズ径を0.05 mmと固定し,ローターピンの周速を 3, 6, 9, 12 m/s と変えた分散実験を行い,各条件下でのチタニアナノ粒子の凝集体の分散特性を調べ,(i)分散および凝集過程における粒子のζ-電位と動的光乱法による粒子径の相関,(ii)粒子のTEM像観察により,粒子の破砕と結晶構造の関連性,(iii)最適分散過程における粒子の特性の評価,(iv)凝集したナノ粒子への分散剤の添加による再分散現象の確認と結晶性の変化,などを実験的に検討した.
特に(iv)の検討は,ナノ粒子の高透明な紫外線遮蔽材の応用において重要となる.使用する原料の一次粒子径が大きい場合には,一次粒子までの分散では,光透過度が依然として十分でないために,一次粒子を破砕する必要がある.しかし,一次粒子を破砕すると,活性化した表面が現れて再凝集し,透過度が悪くなるため,分散剤を入れて再分散を試み,より透明な分散スラリーが得られることを検討した.
1. 実験装置および方法
1.1 原料
原料スラリーは,イオン交換水(電気伝導度1 μS/cm以下)中にチタニアナノ粒子(テイカ製,MT-100AQ,ルチル型,一次粒子径15 nm[カタログ値])を混合した.チタニア濃度は10 mass%に調整した.スラリー仕込み量は1.2 kg,スラリー循環流量は20 kg/hとした.なお,このチタニアナノ粒子は水に対して親和性をもつように表面処理が施されていて,分散剤を用いなくてもビーズミル分散により一次粒子径に近づくことができる.
1.2 ビーズミル実験装置
2軸式ビーズミル(寿工業製,DAM-1)と周辺機器の概略図を Figure 1 に示す.2軸式ビーズミル(ミル容積600 mL),スラリータンク,スラリーポンプから構成される.また,外観写真を Figure 2 に示す.スラリータンクで予備混合されたチタニアのスラリーを,スラリーポンプによりビーズミル下部よりミル内に供給する.供給されたスラリーは,ミル内に充填した微小ビーズがローターピンにより撹拌された状態の中で分散され,ミル上部に移動する.ミル上部では,ローターピンとは別駆動の遠心力を利用したセパレーターにより,ビーズとスラリーは分離され,スラリーのみが機外に排出される.排出されたスラリーは,スラリータンクに戻る.再度,分散されたスラリーはスラリーポンプによりビーズミルに供給され分散を繰り返すことにより分散する.ここで,粒子のサンプリングは,ビーズミル出口で行った.
1.3 ビーズミル実験条件
既往の研究においては,ビーズ径およびローターピン周速によるチタニアナノ粒子の分散・凝集性への影響を調べるために,ビーズ径を 0.03, 0.05, 0.1 mm とし,また,ローターピン周速を 3,6, 9 m/s とそれぞれ変化させてビーズミル分散実験を行い,これらの分散条件下で得られたチタニアナノ粒子について,動的光散乱法(日機装製,マイクロトラックUPA150)による粒度分布測定から分散・凝集性の評価を行い,また,X線回折パターンによる結晶性の評価により,一次粒子に影響を与えない分散条件が明らかにされた.
そこで,本研究では,ビーズ径を0.05 mmと固定し,ミル内のビーズ充填率は70%とし,ローターピン周速を 3, 6, 9, 12 m/s と変化させて分散実験を行い,それぞれの分散状態について詳細な評価を行った.どの実験もセパレーター周速は,12 m/sと固定した.なお,これ以降,周速とは,ローターピンの周速を表すことにする.
1.4 評価方法
分散実験により得られたチタニアナノ粒子について,動的光散乱法による粒度分布測定から分散・凝集性の評価,透過型電子顕微鏡(日本電子製,JEM-3000F)による粒子形状の観察,ζ-電位計(Malvern製,Zetasizer Nano)による界面電気化学的な分散効果と分光光度計(日立ハイテクノロジーズ製,U-2810)による光学的評価から分散特性の評価を行った.また,同様に各分散条件下でのチタニアナノ粒子の粒子径は,X線回折装置(RIGAKU製,RINT2550VHF)によるルチル結晶(110)ピークの半価幅から得られるScherrer径,小角X線散乱による粒子径,比表面積計(Micrometrics製,flowsorb II 2300)によるBET径をそれぞれ算出して評価した.また,X線回折装置によるXRDパターンから結晶化度の評価も行った.
Fig.1 Schematic diagram of circulating dispersion process with dual axis beads mill
Fig.2 Photograph of dual axis beads mill
2. 実験結果
上記のビーズミル分散実験条件下で得られたチタニアナノ粒子の分散特性について,次に示すようにそれぞれ各項目に分けて述べる.
2.1 分散によるチタニアナノ粒子のTEM像観察
原料およびビーズミルの周速変化により分散されたチタニアナノ粒子で,動的光散乱法によるメジアン径40 nm付近の粒子のTEM像を Figure 3 に示す.具体的には,周速が3 m/sでは分散時間480 min,周速が6 m/sでは分散時間180 min,周速が9 m/sでは分散時間60 min,周速が12 m/sでは分散時間40 minでの粒子のTEM像を観察した.原料は,短径は10 nm程度,長径は30 nmから50 nm程度の針状の一次粒子が凝集しているナノ粒子の凝集体であることが確認された.周速が3 m/sでは一次粒子の形状はほぼ維持された状態であった.周速が6 m/sではわずかに10 nm程度まで粒子が破砕されていることが確認されるが,ほとんどの粒子においては一次粒子の形状は維持された状態となっていた.周速が9 m/s では,10 nm程度まで粒子が破砕されている割合が少し増加した.周速が12 m/sでは,10 nm程度まで粒子が破砕されている割合はさらに増加した.一次粒子に対するダメージは,周速により大きく異なり,一次粒子が破砕しない分散をするためには,周速が6 m/s以下にする必要があることが確認された.
Fig.3 TEM images of TiO2 nanoparticles dispersed at various rotor speeds
2.2 動的光散乱法による粒子径の周速による変化
周速を変えた場合のチタニアナノ粒子凝集体の動的光散乱法によるメジアン径と分散時間との関係を Figure 4 に示す.周速が12 m/sでは,分散直後からメジアン径は急速に減少し60 min程度でメジアン径40 nm程度までとなるが,それ以後は粒子径が増加し,チタニアナノ粒子の再凝集が生じることがわかる.周速が9 m/sでは,90 min程度でメジアン径は40 nm程度まで減少し,それ以後は再凝集により粒子径が増加する傾向となった.この粒子径の増加する傾向は周速が9 m/sの方が周速が12 m/sより緩やかであった.周速が6 m/sでは,300 min程度でメジアン径35 nm程度まで減少し,さらに粒子径は減少する傾向となった.周速が3 m/sでは,周速が6 m/sより時間はかかるが,450 min程度でメジアン径は40 nm程度まで減少し,さらに粒子径は減少する傾向となった.以上の結果より,周速が9 m/sより大きい場合は,周速に応じてビーズ同士のせん断エネルギーは一次粒子が破砕または表面損傷を引き起こすエネルギー以上となり,粒子表面が活性化し再凝集に至ると考えられる.一方,周速が6 m/s以下では,粒子径の増加が見られないことから,粒子表面が活性化することなく分散できたと考えられる.周速が6 m/sと周速が3 m/sを比較すると,メジアン径が40 nmまでの分散時間は,周速が6 m/sでは180 min程度,周速が3 m/sでは450 min程度と2.5倍程度の時間となっている.ビーズ同士のせん断エネルギーが高すぎると,一次粒子の破砕または表面の損傷により粒子表面が活性化して再凝集に至り,ビーズ同士のせん断エネルギーが低すぎると,凝集した粒子の分散ができないため,ビーズ同士のせん断エネルギーの最適化が必要となる.以上の考察より,周速が6 m/sのとき,再凝集せずに,分散できるに十分なせん断エネルギーをビーズがナノ粒子凝集体に与えることがわかった.
Fig.4 Median diameter based on DLS method of dispersed TiO2 slurry as a function of dispersing time
2.3 チタニア分散スラリーのζ- 電位の周速による変化
各周速による分散時間とζ-電位の関係を Figure 5 に示す.チタニアナノ粒子の分散したスラリーのチタニア濃度を0.1 mass%に調整しζ-電位を測定した.周速が3 m/sでは,120 min程度まで低下する傾向となり,120 min以後,−48 mV程度で一定となった.周速が6 m/sでは,300 minで−46 mVまで徐々に低下し,さらに低下する傾向となった.周速が9 m/s では,20‒40 min程度で−46 mV程度まで低下し,それ以後,上昇し,420 minでは−43 mVとなり,さらに,上昇する傾向となった.周速が12 m/sでは,60 minで,−43 mV以下まで低下し,それ以後,上昇し,300 minでは−39 mVとなり,さらに上昇する傾向となった.ζ-電位の絶対値が大きい順番は,分散時間120 min以後は,周速が3 m/s,周速が6 m/s,周速が9 m/s,周速が12 m/sとなり,周速が小さい程,ζ-電位の絶対値が大きく,安定な分散状態となった.ζ-電位が途中から上昇する傾向となった周速が9 m/sと周速が12 m/sでは,動的光散乱法による粒子径も途中から増加する傾向となった.このチタニアナノ粒子は,Si, Al の酸化物,水酸化物およびアルギン酸ナトリウムにより表面処理されており,水に対する親和性が良好であるが,周速が大きくなると,一次粒子の破砕もしくは表面の損傷により,チタニアの新しい面が露出して,ζ-電位の絶対値が小さくなり,再凝集する傾向となったと考えられる.
また,周速が6 m/s と3 m/s では,TEM像からほとんど一次粒子破砕することなく分散することが確認されたが,分散に伴いζ-電位は低下傾向となった.この原因は,一次粒子破砕しなくても,ビーズにより粒子表面が損傷を受けて,ζ-電位が低下傾向になったことが考えられる.
Fig.5 ζ-potential of dispersed TiO2 slurry as a function of dispersing time
2.4 チタニア分散スラリーの光透過度の周速による変化
分光光度計によるチタニア分散スラリーのUV‒Visスペクトルを,チタニア濃度を0.1 mass%に調整し,光路長10 mmのセルを使用して測定した.チタニアの吸光スペクトルは400 nm以下では,ほぼ100%吸光するが,可視光領域では,分散条件により透過度は異なった.周速が3 m/sの時間ごとのUV‒Vis吸収スペクトルの変化とスラリー写真を Figure 6 に示す.時間とともに可視光領域の透過度が増加することが確認された.各周速による分散時間と波長600 nmでの透過度の関係を Figure 7 に示す.周速が3 m/sのときは,透過度は時間とともに徐々に増加し,480 min以後も増加する傾向となった.周速が6 m/sのときは,周速が3 m/sのときより透過度の増加速度は速く,300 min以後も透過度は増加する傾向となった.一方,周速が9 m/sのときは,初期に透過度は増加するが,180 min以後は低下する傾向となった.周速が12 m/sも同様に,初期には透過度が増加するが,60 min以後は低下する傾向となった.周速が6 m/s以下のときは,再凝集せずに粒子径が細かくなったため,光の散乱強度が低下して透過度は増加する傾向となった.一方,周速が9 m/s以上のときは,再凝集が始まる付近から,光の散乱強度が増加して透過度は低下することが確認された.
Fig.6 Change of optical spectrum of TiO2 slurry dispersed at 3 m/s of rotor speed
Fig.7 Transmittance of TiO2 slurry at 600 nm in wavelength as a function of dispersing time
2.5 各種の方法で求めた粒子径の周速による変化
破砕された粒子の粒子径を評価するため,異なる3種類の方法(X線回折パターンからのScherrer 径,BET比表面積からのBET径,X線小角散乱法からのメジアン径)を比較した.
最初に,分散時間とScherrer径の関係を Figure 8(a)に示す.Scherrer 径の減少は,一次粒子の破砕や粒子表面の損傷が原因として考えられ,周速が上昇するにつれ,一次粒子の破砕や粒子表面損傷が増加しているものと考えられる.Scherrer 径は,X線回折パターンから,ルチル結晶(110)ピークの半価幅を調べ,以下のScherrer式により求めた.
D=kλ /(Bcosθ ) (1)
ここで,D: Scherrer径,k: 形状因子(0.9を使用),B: ルチル結晶(110)ピークの半価幅,λ: X線波長である.
周速が大きいほど,TEM像と同様に,Scherrer径からも一次粒子以下に破砕されて小さくなる傾向があることが確認された.
次に,分散時間とBET径の関係を Figure 8(b) に示す.BET径の減少は,分散による粒子表面積の増加および一次粒子の破砕による粒子の表面積の増加が原因と考えられる.BET径は,BET比表面積を測定し,球と仮定した次式により求めた.
d=6 / ( ρS ) (2)
ここで,d: BET径,ρ: 粒子密度,S: BET比表面積である.周速が大きいほど,BET径は,小さくなる傾向となった.
また,分散時間とX線小角散乱法からのメジアン径の関係をFigure 8(c) に示す.周速が大きいほど,X線小角散乱法からのメジアン径は,小さくなる傾向となった.
これら異なる3種類の方法で得られる粒子径は Figure 4 で示されたDLSから求まる粒子径と著しく異なり,回転速度および分散時間とともに次第に小さくなるが,これらのBET径とX線小角散乱法からのメジアン径およびScherrer径の相関性を Figure 9 に示す.点線はBET径を示し,凝集粒子に対しても球形として求めた粒子径のため,大きめの粒子径を表すことが予測され,図に示されるように,Scherrer 径およびX線小角散乱法によるメジアン径より大きくなることがわかる.凝集粒子についてのX線小角散乱法によるメジアン径は,凝集度合いが大きいとBET径に近くなり,1次粒子が強固に接触した凝集径を示すものと考えられる.結晶子の大きさを表すScherrer径は,最も小さい粒子径を示し,分散による粒子径の変化も小さい.しかし,1次粒子が10 nm以下に粉砕されてくると,X線小角散乱法によるメジアン径に等しくなってくる.また,X線小角散乱法からのメジアン径およびScherrer 径は,周速に関係なく,ほぼ同一線上に乗ることが確認された.
これらの方法は測定原理が異なるため,相対的な数値は違うものの,一次粒子の粒子径が低下傾向であることが確認された.
Fig.8 (a) Scherrer diameter, (b) BET diameter and (c) Median diameter (based on small angle X-ray scattering method) of TiO2 nanoparticles as a function of dispersing time
Fig.9 Correlation of dispersed TiO2 nanoparticles size obtained by BET, small angle X-ray scattering and Scherrer method
2.6 凝集粒子の再分散現象および考察
高透明な紫外線遮蔽の用途開発として,さらに微細な粒子を得るため破砕された再凝集体の再分散を試みた.具体的には,周速が12 m/sで320 min運転を行い再凝集したチタニアナノ粒子に,分散剤(東亜合成製,アロンT-40)を粉体と同量加え,周速を12 m/sに設定して,920 minまで再分散を行った.用いた分散剤の主成分はポリアクリル酸ナトリウムで,粒子表面に吸着層を形成し,粒子の表面電荷の増加および立体障害による粒子間の反発を高めることでチタニアナノ粒子を分散状態にする.比較のために,最初から分散剤を入れ,周速を12 m/sに設定して分散した実験も行った.分散時間と動的光散乱法によるメジアン径の関係をFigure 10 に示す.
分散剤を途中から加えた条件では,分散剤を加えない状態では,120 minで40 nm程度まで小さくなり,それ以後,再凝集により粒子径は増加する傾向となった.320 minで分散剤を添加すると,急激に粒度は小さくなり,400 minで30 nm程度,700 minで20 nm程度まで小さくなり,それ以後,粒子径は変化しなくなった.
原料,再凝集,再分散した様子の模式図を Figure 10 の中に添付した.原料は一次粒子が凝集している様子を表し,分散剤を入れる直前は,一次粒子が破砕された粒子が再凝集して,粗大化している様子を表し,分散剤を追加した920 minのところは,一次粒子の破砕された粒子が分散した様子を表した.一方,分散剤を最初から入れた条件では,再凝集することなく粒子径は小さくなり,700 min以後は途中から分散剤を入れたときと同様の20 nm程度の粒子径となった.この20 nm程度の粒子径は,TEM像では10 nm程度となっているが,動的光散乱法では弱い凝集により,20 nm程度になっていると考えられる.参考までに,各周速によるチタニアナノ粒子の分散時間と動的光散乱法によるメジアン径の関係および模式図を Figure 11 に示す.
分光光度計によるチタニア分散スラリーのUV‒Visスペクトルを,チタニア濃度を1 mass%に調整し,光路長10 mmのセルを使用して測定をした.分散剤を途中から入れた条件と分散剤を最初から入れた条件での,分散時間と波長600 nmにおける透過度の関係を Figure 12 に示す.
分散剤を途中から入れた条件では,分散剤を入れる前は,透過度は数%で推移し,分散剤を入れた以後,透過度は急激に増加する傾向となった.700 min以後は,分散剤を最初から入れた条件での透過度と同等の透過度となった.分散剤を途中から入れた条件でのUV‒Vis スペクトルの経時変化を Figure 13 に示す.時間とともに透過度が増加している様子が確認できた.一次粒子が破砕され10 nm程度以下になった粒子のTEM像を Figure 14 に示す.格子縞が確認される粒子も存在することから,一次粒子の破砕により10 nm程度以下になった粒子でもある程度の割合で結晶性が維持していることが確認された.
分散剤を途中から加えた条件で,結晶化度の変化を調べた.結晶化度は,XRDパターンより,結晶質によるピーク部分と非晶質によるハロー部分から,結晶質によるピーク部分の割合を調べることにより求めた.その結果,原料の結晶化度は78%であり,結晶化度は分散時間とともに徐々に低下し,320 minで46%となった.分散剤を加えた場合も,結晶化度に大きな変化は見られなかった.再凝集しても,適切な分散剤を加え,適切な条件により再分散すれば,原料の一次粒子より微細な粒子の分散した,より透明な分散スラリーが得られることが確認された.
Fig.10 The change of the median diameter (based on DLS method) of TiO2 slurry dispersed at 12 m/s with and without dispersant and by addition of dispersant halfway
Fig.11 Median diameter (based on DLS method) of dispersed TiO2 slurry as a function of dispersing time
Fig.12 Transmittance of TiO2 slurry at 600 nm as function of dispersing time
Fig.13 Change of optical spectrum of dispersed TiO2 slurry after addition of dispersant
Fig.14 TEM image of TiO2 nanoparticles broken after dispersion and the lattice strip
結 言
ビーズとスラリーを遠心力により分離するためのセパレーターと,ビーズを撹拌するためのローターピンをそれぞれ別駆動するようにした2軸式ビーズミルを用いて,チタニアナノ粒子をモデル粒子として,ビーズ径を0.05 mm,周速を 3, 6, 9, 12 m/s に設定し,分散実験を行った.動的光散乱法による粒子径では,周速が6 m/s以下で再凝集しないことが確認された.再凝集しないサンプルでは透明性の高い分散スラリーが得られた.ζ-電位測定では,分散が進むとζ-電位の絶対値が大きくなり,凝集するとζ-電位の絶対値が小さくなる傾向が確認された.また,TEM像による観察では,凝集せずに分散する粒子は,ほとんど一次粒子は破砕されずに分散しており,逆に凝集傾向の条件では一次粒子は破砕され,表面処理されていないチタニアの表面が現れることにより凝集傾向となることが確認された.BET径,Scherrer 径,X線小角散乱法によるメジアン径は,測定原理は異なるため相対的な数値は違うものの,粒子径は時間とともに減少傾向にあるため,動的光散乱法のような凝集状態の粒子径ではなく,ほぼ個々の粒子径が測定されることが確認された.また,一次粒子を破砕して再凝集したチタニアナノ粒子でも,適切な分散剤を加え,適切な分散条件で再分散を行えば,原料の一次粒子より微細な粒子の分散した,より透明な分散スラリーが得られることが確認された.
[謝 辞] 本研究は科学研究費補助金基盤研究(A)(22246099)および若手研究(B)(23760729)の助成を受けて実施したものである.ここに謝意を表す.
Nomenclature
B = line broadening at half the maximum intensity (full width at half maximum) [rad]
D = Scherrer diameter [m]
d = BET diameter [m]
k = dimensionless shape factor [−]
S = specific surface area [m2/kg]
θ = Bragg angle [rad]
λ = X-ray wavelength [m]
ρ = particle density [kg/m3]
Literature Cited
Inkyo, M., T. Tahara, T. Iwaki, F. Iskandar, C. J. Hogan Jr. and K. Okuyama;“Experimental Investigation of Nanoparticle Dispersion by Beads Milling with Centrifugal Beads Separation,” J. Colloid Interface Sci., 304, 535‒540 (2006)
Joni, I. M., A. Purwanto, F. Iskandar and K. Okuyama; “Dispersion Stability Enhancement of Titania Nanoparticles in Organic Solvent Using a Bead Mill Process,” Ind. Eng. Chem. Res., 48, 6916‒6922 (2009)
Tahara, T., M. Inkyo, Y. Imajyo and K. Okuyama; “Low Energy Dispersion of Titania Nanoparticles by Dual Axes Beads Mill,” J. Soc. Powder Technol. Jpn., 48, 198‒205 (2011)
Takeda, M., E. Tanabe, T. Iwaki, A. Yabuki and K. Okuyama; “Preparation of Transparent Nanocomposite Microspheres via Dispersion of High-Concentration TiO2 and BaTiO3 Nanoparticles in Acrylic Monomer,” J. Soc. Powder Technol. Jpn., 45, 23‒29 (2008)
Change in Characteristics of Titania Nanoparticles during the Process
of Dispersion, Agglomeration and Re-Dispersion
with a Dual-Axis Beads-Mill
Takashi Tahara1, Mitsugi Inkyo1, Yuji Imajou1, Takashi Ogi2 and Kikuo Okuyama2
1 Kotobuki Industries Co., Ltd., 1–2–43 Hiro-Shiratake, Kure-shi, Hiroshima 737–0144, Japan
2 Department of Chemical Engineering, Graduate School of Engineering, Hiroshima University, 1–4–1 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima-shi, Hiroshima 739–8527, Japan
Keywords: Beads Mill, Low Energy Dispersion, Nanoparticle, Titania, Re-Dispersion
Titania nanoparticles were dispersed with a dual axis beads mill that enables nanoparticles to be dispersed with much lower energy than usual, and their dispersion characteristics were examined. In a recent study, titania nanoparticles were found to disperse to a primary nanoparticle size by evaluating the size and crystallinity of dispersed particles.
In this study, the dispersed titania nanoparticles were further characterized by examining TEM, small angle X-ray scattering, ζ-potential, specific surface area and optical properties. TEM revealed that the dispersion of titania nanoparticles at low energy gave the primary particle size without crushing the crystals, while dispersion at higher energy gave rise to coagulation of crushed titania nanoparticles of around 10 nm in size. The large agglomerated nanoparticles were re-dispersed to around 10 nm by adding dispersant under the appropriate conditions to give a transparent titania slurry.